JAとうや湖
JAとうや湖
事例紹介 - ケーススタディ
クリーン大地とうや湖
「量」ではなく「質」の向上こそ競争力の源泉
世界基準の環境保全型農業を通じてブランド力を向上
事業内容: 農畜産物の受入・選別調整・販売業務や営農情報の提供・各種補助事業の申請業務
住所: 北海道虻田郡洞爺湖町香川55-7
テュフ ズードの提供サービス: GLOBALG.A.P.に関する管理者トレーニング・認証サービス
クリーン大地とうや湖 「量」ではなく「質」の向上こそ競争力の源泉 世界基準の環境保全型農業を通じてブランド力を向上
2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック。世界か ら注目を集め、日本の文化を世界に発信する一大イベントになるとの期待が高まる。その選手村で使う食材の調達条件に「農業生産工程管理(GAP)の認証」が必要となることが、農作物の生産者のあいだで話題になっている。国内農家のGAP認証の取得率は数%程度にとどまるとみられ、このままでは日本の食材を使った料理を各国の選手団に提供できないのではないかという懸念だ。日本政府はGAP認証の取得を促進する施策を相次い で打ち出している。
関係者の懸念や盛り上がりをよそに、実に約10年もさかのぼる2009年、GAPの世界基準であるGLOBALG.A.P.の団体認証を日本で初めて取得し、現在までその認証をこつこつと維持しつづけている人達がいる。北海道の洞爺湖の周辺地域を拠点とするJAとうや湖とその生産者達だ。決して政府の施策やオリンピックなどのイベントがあったわけではない。JAとうや湖とその生産者達は、なぜ10年にもわたりGLOBALG.A.P.認証を維持し続けられたのだろうか。その出発点には「クリーン農業に先進的な産地でありたい」という、生産者の安心・安全に対するあくなき挑戦があった。GLOBALG.A.P.認証の取得以前から10年以上にわたり、その地道な活動に面々と取り組んできたのである。
「量」ではなく「質」の向上こそ競争力
洞爺湖とその周辺地域を事業区域とするJAとうや湖は、北海道に組織された総合農協(JA)としてその規模は、必ずしも大きいとはいえない。生産品目は、じゃがいもやにんじん、トマト、ごぼう、セルリー、大根、かぼちゃ、レタス、ピーマンなど幅広い。しかし2018年の時点で農家数は約350戸、販売品取扱高は年間約53億円余りにとどまる。
激しい競争の波が押し寄せる農業業界では、「量」を前面に打ち出した取引競争が繰り広げられがちだ。JAとうや湖のような中小規模の組織では量の拡大には限界があり、競争力を高めるには消費者や流通業界に対して訴求できる「何か」が必要になる。発信力を高めて存在感を維持し続けるために、そのブランド力を洗練させて消費者の認知度を高めることが、かねてからの挑戦であった。「生産量では、北海道のほかの産地に太刀打ちできません。そこで質を高める努力を継続して取り組んでいます」とJAとうや湖 営農販売部 クリーン農業推進課の黄金崎順一氏は語る。
折しも1990年代、国内の消費者の意識が転換し始める。食の安全に対する意識や環境意識が高まり、消費者の購買行動が変わり始めた。大手の流通事業者はプライベート・ブランドを相次いで立ち上げた。時を同じくJAとうや湖の生産者も、質の向上に向けて真剣に考え始めていた。化学肥料や化学合成農薬への依存度が高まっていた当時の状況を変えていこうと、1990年頃にはすでに有志の生産者が「クリーン農業」に乗り出しいる。
安心・安全を食卓に届けたい
クリーン農業とは、北海道が全国に先駆けて提唱した環境保全型農業の枠組みである。化学肥料や化学合成農薬の使用を必要最小限にする、たい肥など有機物の施用などによる土づくりを推奨する等々の、農業の自然循環機能を維持・増進させ、環境との調和に配慮しながら品質の高い農産物の生産を目指す。2000年には、クリーン農業に基づく表示制度「YES!clean」も創設される。JAとうや湖におけるクリーン農業は当初、有志の生産者の取り組みに過ぎなかったが、熱心な生産者の想いがその活動のすそ野を徐々に広げていく。
そんな折りクリーン農業に基づいて生産されたじゃがいもやにんじんが、生協やイオンのプライベート・ブランドに採用される成功事例が生まれる。その後はJAとうや湖という組織レベルにおける事業の柱の一つとして脈々と育っていく。クリーン農業の認証者数は2018年時点において、全農家戸数の50%を超える水準に達するまで拡大している。Yes!clean表示が認められた農作物は18品目(りんご、にんじん、レタス、かぼちゃ、ピーマンなど)に達し、北海道内のJAでは、最多の登録品目を誇る取り組みだ。
クリーン農業の基盤が整い、その生産物の取引が拡大するなか、JAとうや湖は2000年代中頃からGAPの規定整備にも乗り出した。イオンや生協など国内の流通事業者がそれぞれ独自に定めたGAPへの対応を進めるかたちである。「クリーン農業を通じて、栽培基準や生産集団の管理体制の下地はありました。それらを具体的に評価・記録をして、GAPへの対応に発展させていきました」(黄金崎氏)。JAとうや湖の支援の下で生産者達は、栽培管理マニュアルの作成や栽培基準の統一、生産管理台帳の作成と活用などを進めていった。
「世界基準」のGLOBALG.A.P.を目指す
こうした活 動を土 台として、J A とうや湖はいよいよGLOBALG.A.P.の認証取得にも乗り出した。「クリーン農業や流通事業者のGAPへの取り組みを通じて自信が生まれました。もう少しみんなで頑張れば世界基準のGLOBALG.A.P.に手が届くところにいたのです」(黄金崎氏)。
当初取り組んだクリーン農業や流通事業者のGAPと、世界基準であるGLOBALG.A.P.には質的な違いがいくつかある。例えばYES!cleanは主に、栽培管理システムを想定した認証制度である。土づくりや施肥、病害虫防除などの栽培基準が定められている。その認証維持には、北海道クリーン農業推進協議会へ実績を報告することで自動継続される。これに対してGLOBALG.A.P.は、農場管理システムの認証制度といえる。食品安全はもちろん、環境保全、労働安全、人権保護、農場経営管理など、より広範な視点での農場管理基準が定められている。認証維持には、認定審査機関による1年ごとの審査が不可避である。
また流通事業者のGAPでは食品安全や環境保全をカバーしていれば良かったのに対し、GLOBALG.A.P.では生産物に直接的に関わらない農場経営や労働安全にかかる管理にまで対象が広がる。当初はそこまでの管理を行うことについて、生産者達のあいだでもさまざまな意見があったといいます。労力や費用がかさむ一方、販売価格に直接的に反映されるとは言い切れない。JAとうや湖は当時、講習会を通じて、生産者に理解を求めていった。GLOBALG.A.P.は世界120か国以上に普及し、世界的な潮流としては事実上の国際標準として捉えられている。そして日本でもその必要性の認識が高まりつつあった状況を丁寧に説明していった。
リスク評価と記録を丁寧に進める
GLOBALG.A.P.認証では新たに、リスク評価や記録を従来にない水準に高める必要があった。従来は要求項目が「チェックリスト」として存在し、それを参照しながら確認するだけで十分な状況であった。しかしGLOBALG.A.P.認証ではただチェックリストを確認するだけでなく、具体的に記述し、判断していく必要がある。記録もさることながら多くの生産者には、作業環境の整理整頓も大きな挑戦だった。従来は一つの倉庫に、農作物や選別作業場だけでなく、農作業工具や農薬の保管場所が集約されている場合は決して珍しくはない。GLOBALG.A.P.認証では、こうした保管場所を厳密に区分けして保管することを求めていく。
事務局を務めるJAとうや湖は、足かけ2年近くの時間を掛けて記録や整理整頓の取り組みを支援する枠組みを固めていった。生産者の方々に「栽培履歴」として、定型の書式に落とし込んで提出してもらうなどの支援の枠組みを創りあげていく。そして2009年、GLOBALG.A.P.の団体認証としては国内第一号の認証の取得につなげたのである。
JAとうや湖のGLOBALG.A.P.認証は毎年の継続審査を経て、ほぼ10年間継続したことになる。これまでにのべ28人の生産者がGLOBALG.A.P.の認証を担っており、認証作物は現在、11作物に達する。馬鈴薯、にんじん、カボチャ、大根、トマト、ミニトマト、ピーマン、ブロッコリ、レタス、キャベツ、セルリーなど団体認証組織のなかでも品目数は多い。今後も組織ごとに生産に関わるトレーニングなどを実施してスキルアップを目指していく。
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